上野 凌氏 / ライフセービング
「海の安全な楽しみ方を伝え続けられるライフセーバー」でありたい。日本史上初の金メダル獲得から、その先に見据える挑戦。
日本のライフセービング界を代表する存在として、国内外で活躍を続けてきた上野凌さん。2024年の世界大会では日本代表キャプテンとして、日本史上初となる悲願の金メダルを獲得しました。プレイヤーにとどまらず、次代を担うジュニアの育成や、水難事故ゼロを目指す仕組みづくりにも力を注いでいます。海への深い敬意と挑戦を重ねる上野さんに、独自のライフスタイルとこれからの展望を語っていただきました。
留学先で芽生えた、社会課題の解決への想い
ライフセービング SERC種目 競技中の上野氏
ーー ライフセービングとの出会いを教えてください
6歳の時にスイミングスクールに通い始めたのですが、そこに地元のクラブから「ジュニアライフセービングプログラム」の募集が届いたんです。水泳の仲間たちと「ちょっと面白そうだからやってみようか」と、みんなで始めたのがきっかけでした。
ーー そこからライフセービング一筋で歩んでこられたのでしょうか?
いえ、高校生までは競泳とライフセービングの両方をずっと並行して続けていました。
日頃のベースとなる練習はスイミングスクールで泳力を磨き、月に2回ほど海でのジュニアプログラムに通って、浜辺を走ったり、波の中で泳いだり、パドルボードを漕いだりする生活です。どちらか一方に絞るというよりは、根底に「海が好き」という気持ちがあったので、海での活動に活かすために水泳も頑張る、という感覚でしたね。
ーー ライフセービング一本に絞るようになった「転機」は何だったのでしょうか?
一番は高校2年生の時に1年間アメリカへ語学留学したことですね。水泳から完全に離れていたその期間、現地の貧困地区でボランティアに参加したんですけど、自分が恵まれていたことを痛感すると同時に、目の前の人たちを救いきれない無力さを感じて…。「社会の課題を根本から解決できる人間になりたい」と強く思いました。
帰国後、何をするべきか考えた結果、子どもの頃からやってきたライフセービングこそが「水難事故という社会課題」に向き合う活動そのものだと気づいたんです。だったら、この分野で根本的な解決を目指そうと。
そのためにも、まずは競技で日本一や世界一という分かりやすい実績を作ろうと考えました。発言力と影響力を持って初めて、競技の価値や水難事故を減らすための発信が、多くの人に届くようになる。その両輪を回す覚悟を決めたのが大学1年生の頃で、僕のアスリートとしての本当のスタートでした。
ーー 社会課題への想いが原動力になったんですね!その後は着実に実力をつけ、実際に2024年の世界大会では日本代表のキャプテンとして、SERC種目(事故を想定し、チームで救助・応急処置などの対応力を競う実技種目)で、日本史上初の金メダルを獲得しました。当時の反響はいかがでしたか?
業界も沸いてくれたと思います(笑)。
日本代表としても、僕自身も、元々世界大会での「2位(銀メダル)」は過去に経験があったんです。でも、「世界一」と言えるかどうかで周囲の反応はまるで違いましたね。そういう意味でも、「世界一」という肩書きが周囲に与えるインパクトの大きさをすごく実感しました。
ーー 現在は会社員として働きながら、ライフセービングの活動を続けていると伺いました。ハードな生活の中で練習を続けるルーティーンや工夫があれば教えてください。
普段は平日の朝5時半から7時まで練習して、そこから仕事に向かっています。「よくそんなことできるね」と言われることもあるんですが、僕の中で大切にしているのは、「計画と実行を分ける」ということです。練習すること自体を「生活の仕組み」にしてしまうんです。
まず、メニューを考える「計画」は、日曜の夜にすべて終わらせておきます。自分の課題や弱点を分析して、1週間分のメニューを組んでおく。この時の自分は「コーチ」です。
で、平日になったら、自分はただの「選手」になります。朝起きたら何も考えずにプールへ向かう。プールサイドに着いて初めてメニューを見て、「うわ、今日の自分、こんなにきついメニューやるんだ……」って思っても、もうやるしかない状態になっている(笑)。
「今日どうしようかな、行きたくないな」と考え始めると、頭ばかりが先行して体が動かなくなってしまうじゃないですか。でも、考える作業と動く作業を完全に切り離してしまえば、余計なエネルギーを使わずに、すっと最初の一歩を踏み出せる。そうやって淡々と練習を積み重ねています。
ーー 言うのは簡単ですけど、それを実行できる人はなかなかいないと思います(笑)。指導者としての哲学はありますか?
子どもたちへの指導には、2つの意味があると思っています。1つは、「自分自身のアップデートになる」こと。感覚でやってきた泳ぎを言語化したり、最新の理論を学んで教えたりする作業は、巡り巡って、自分の練習メニューを組むコーチ役の自分にもすごくプラスになっています。
もう1つは、子どもたちの力を「応援して引き出す」ことです。根性論を押し付けるのではなく、タイムを測って可視化したり、フォームを客観的に映像で見せてアドバイスしたり。
僕の役割は、低空飛行から大きくステップアップするための「成長の角度(きっかけ)」を示してあげること。ただやらされるのではなく、自分で納得して動き出せば、子どもたちは勝手にグングン登っていきます。その成長していくプロセス自体を「楽しい」と感じてくれたらいいなと思っています。
視界が順位を左右する、ゴーグルの重要さ
プールではフィット感を重視して【Blade F】を使用
ーー VIEWはいつから愛用されていますか?
気づいた時には子どもの頃からずっとVIEWを使っていましたね。プレゼントでいただいた他社のゴーグルを試したこともありましたけど、レンズの品質のせいか歪んで見えたり、左右の見え方に違和感があったりして、結局VIEW に戻ってきてしまうんです。VIEWのレンズは視界が本当にクリアで歪みがない!
ーー 普段使用されているゴーグルについて、こだわりはありますか?
僕らはプールと海の両方がフィールドなので、環境によって使い分けています。プールでは水流の抵抗が少ないフィット感を重視して選んでいるので「Blade F」や「Blade NX」を使っています。
一方で、海のレースは「対人競技」の側面があって、泳いでいる最中に手がぶつかったりすることも多いので、クッション付きの「Blade ORCA」をメインに使っています。目をしっかり守るためには、クッションは絶対に必要ですね。「Blade NX」はスッキリしたフィット感でキュッと絞れるのに、クッションが付いているから絞っても痛くない。これはすごく画期的だなと感じていて。これからは、海で使うことも検討しています。
上野 凌氏 VIEWゴーグル使用遍歴
ーー レンズのカラー選びはどうされていますか?
レンズカラーはめちゃくちゃ重要ですね。海は自然が相手なので、日差しの強さや砂浜の白さ、水の色によって視界がまったく変わってしまいます。
例えば、晴天の日の白いビーチだと、日光と砂の照り返しで視界が真っ白になってしまうんです。そこで明るいレンズをつけてしまうと、眩しすぎてブイなどの目標物が見えなくなり、真っ直ぐ泳げなくなってしまう。だから晴れの日は暗めのミラーレンズを使います。逆に曇っている日や暗い時間帯は、明るいレンズを選びます。大会には必ず「明るい用」と「暗い用」の両方を持っていって、当日の天候に合わせて直前で選び分けています。
海では、崩れる波だけでなく、沖のちょっとしたうねりや水面の変化まで見逃さずに判断できないと、手が波に当たって、タイムロスに繋がってしまうんです。本当に視界ひとつ、判断ひとつで波に乗れる・乗れないが決まって、それだけで順位が大きく変わってしまうので、視界がクリアであることはライフセーバーにとってすごく重要ですね。
ーー こするだけでくもり止めが復活する「SWIPE ANTI FOG(スワイプアンチフォグ)」機能はいかがですか?
スワイプアンチフォグが出た時は本当に画期的でしたね。ゴーグルの一番の天敵って「曇り」じゃないですか。練習中もレース前も、あの曇りのストレスが劇的に改善されました。曇り止めの持続性が格段に上がったのを当時実感しましたし、僕は「スワイプしても曇りが取れなくなったら買い替え時」という一つのサインにしています。
フル稼働で見据える、ライフセービングの未来
多忙な時間を縫って、後進の育成にも励んでいる
ーー 選手としての活動のほかに、取り組まれていることについて教えてください
普段はコンサル会社で働きながら、平日の早朝と週末を使って、練習などの時間に充てていますが、地元の「西浜サーフライフセービングクラブ」では、夏場を中心に水辺の事故ゼロを目指して、監視救助活動もおこなっています。
それ以外にも、クラブを通じて環境問題の啓発活動にも力を入れていて。パドルボードで江の島の沖までゴミ拾いに行き、集めたゴミや海の現状を発信するなど、海を守るための活動にも取り組んでいます。
ーー 選手や指導者にとどまらず、業界全体の広報も担っているような印象ですね
そうですね。いまは日本ライフセービング協会にも入って、「どうやったらこのスポーツの価値をより高めていけるか」という仕組みづくりを考えています。
例えば、ライフセーバー仲間とチームを組んで全日本選手権のYouTubeライブ配信を立ち上げたり、選手たちの写真を撮影して本人たちに無償で配って、自身のPRに使ってもらったり。そうした足元の取り組みから始めました。
幸い、ライフセービング界には志の高い人がすごく多いので、同じようにチャレンジしている仲間たちと一緒に、巻き込み、巻き込まれながら一歩ずつ進めている感じですね。
海を遠ざけるのではなく、正しい楽しみ方を届けたい
現在も監視救助活動を続けている上野氏
ーー いま現場に立っていて感じる課題や想いはありますか?
最近思うこととしては、海って本来はすごく楽しい場所なんですけど、その楽しさっていうのをちゃんと届けられていないな、と思うんです。「海離れが進んでいます」とか、学校のプールの授業が減ってきて「泳げない人が多くなってきています」とか、そういう現状を見ていると歯痒いです。
ーー たしかに、メディアで発信されるニュースも、ネガティブなものの方が多い印象を受けます
だから「海に行くな」「川に行くな」っていうのは、根本的な解決にはなっていなくて。海で自分の身を守るノウハウや、楽しむ方法を知れたら、もっと海の活用が進むんじゃないかなと思っています。
これまでも僕らは「水難事故をゼロにする」ということを目指してやってきましたが、最近はそれにプラスして「いかに海に遊びに来た人たちが【笑顔】で帰れるか」というところまで、コミットしていくことを目指しています。
ーー 今後の目標を教えてください
「海の安全な楽しみ方を伝え続けられる人」ーーそれこそがライフセーバーだと思うんです。「ここで遊んだら危ないよ」と止めるだけではなく、「ここでこういう遊び方をしたら楽しいよ」と正しい知識を伝えていく。そういう存在になっていけるようにこれからも海に入り続けたいなと思っています。 あとは、夢はでっかく、というところで言うと、もっとライフセービングスポーツを普及させていきたいです。2032 年のブリスベンオリンピックでの競技採用を目指して、今以上にライフセービングをアピールして伝えていく場を作っていきたいです。
ーー 最後に、これからライフセービングを始める方にメッセージをお願いします
ライフセービングというのは、本当に色々な活動や関わり方があります。「困っている人がいたら助けてあげる」、そこからがもうライフセービングの第一歩だと思うので、ぜひ自分なりのライフセービングの楽しみ方を見つけていってもらいたいなと思います。
早朝5:30 の練習からビジネスの最前線、そして海での活動まで、息つく暇もないスケジュールを純粋な情熱で駆け抜ける上野さん。「計画と実行を分ける」徹底した自己管理、仲間とともに手足を動かし続ける熱量、そして「競技での頂点」と「社会課題の解決」という両輪を追い求め続ける真摯な姿勢が深く心に残りました。
上野 凌(うえの りょう) ■ 誕生年:1995年生まれ
■ 出身:神奈川県藤沢市
■ 所属:西浜サーフライフセービングクラブ
■ 主な実績
| 2015年 | 日本代表初選出 |
|---|---|
| 2016年 | 世界選手権 日本代表 SERC種目 銀メダル |
| 2017年 | The World Games 日本代表 |
| 2022年 | 世界選手権 日本代表キャプテン |
| 2024年 | 世界選手権 日本代表キャプテン SERC種目 日本史上初 金メダル |
| 2025年 | 日本代表 |
https://ryoueno.jp/
西浜サーフライフセービングクラブ 公式ホームページ
https://www.nishihama.org/
